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純喫茶 / 姫野カオルコ(PHP文芸文庫)
今も消えないままの
幼少期の回想。
そのパズルの1ピース
ひとつひとつは
それぞれ くっきりと
忘れ得ぬ空気感を染ませている。
けれど その前後左右の
記憶の連鎖が途切れているから
ぽつぽつ としか語らない
無口な思い出の駒になる。
大人になって ふとしたことで
そのシーンの時間軸が
ツーッと繋がり
「なぜ … だったのか」
「どういう … 場面だったのか」
ぱっと合点がいくことがある。
そんな ちいさな物語を集めた短編集。
子供の時代 無垢な目には
不可解にしか映らなかった
大人たちの事情。
誰にでも うなずける部分があって
昭和のノスタルジックな描写以外にも
どこか 懐かしい 静かな本。
最後の おはなし
読んだことがあったけど
どこで読んだのか
思い出せない。。。
とりつくしま / 東直子(ちくま文庫)
もしも自分が死んぢゃったあと
大切な人のそばに
モノとして戻れるなら
あなたは なにに なる … ?
そんな設定 10話の短編集。
優しい うたのような
静かに うたっているような…
素朴な語り口の本。
初めての作家さんだったけれど
歌人でもあるというから 納得。
あとがきによると
朗読でも使われているそう。
わかる気がする。
聞いてみたい。
まだ小学生の息子を残して逝った
お母さんが選んだものは ロージン。
少年野球でがんばる
我が子に使われながら
見守りながら
少しずつ 少しずつ
飛び散り
風に消えていく ロージン。
とても せつない第1話をはじめ
どれも やさしいぶん 哀しい。
もし自分だったら…
なにを選ぶだろう。
大事なことほど小声でささやく / 森沢明夫(幻冬舎文庫)
日々 スポーツジムで猛トレーニングする
マッチョな大男・オカマのゴンママ。
そのママの店「スナック・ひばり」に通う
常連客 ひとりひとりの目線で書かれた
あったか小説。
いい人ばかりが出てくる。
どの章もちいさなハッピーエンド。
気持ちが楽に読める。
解説でも触れられている通り
こういう設定は温くなりがちだけれど
登場人物全員に どこか
人生の悲哀が織込んであり
「それでも人は生きていく」姿が
かえって現実的で
読み手の共感を呼ぶタイプ。
ゴンママのキラっとした
助言の言葉や
カクテル言葉がしゃれてる。
”阿吽の阿は五十音のはじまりの『あ』
吽は終わりの『ん』
つまり阿吽はこの世のすべてを表す
過去も未来も人間は生きられない。
生きられるのは いまこの瞬間の阿吽のなかだけ。”
当たり前のことでも
文字にすると
"ああ そうだよね”と
素直にうなずく言葉が
散りばめられていて ホッとする本。
獅子 / 池波正太郎(新潮文庫)
未来の手紙 / 椰月美智子(光文社文庫)
十代の子どもの視点で書かれた短編集。
「ああ やっぱり」
忘れていたけど
読み始めて 「ん?」と思ったら
なるほど 数年前にも
読んだことのある作家さんでした。
http://anmitu-1.jugem.jp/?eid=209
いい文章を綴る人。
前に読んだ時も
そういう感想を持っている。
好きなテイストなのだ。
匂いや 音や 色や 温度。
そんな五感の記憶と共に
心の動きが静かに描かれている。
川上弘美と江國香織を
足して2で割って
さらにうす味にしたような
女性が好きな世界観かな。
目新しい発想ではないけど
「未来の息子」は なかなかに泣ける。
星々たち / 桜木紫乃(実業之日本社文庫)
直木賞の「ホテルローヤル」を読んで
” わー くっらー… ” と
かなり 引いたのだけれど。
ちょっと 気になって
桜木小説 再チャレンジ。
この人は
北国の哀しい女の生き様を書かせたら
チャンピオンかもしれぬ。
石川さゆりが怨念こめて
演歌で歌いそうな世界観だ。
とにかく血縁に恵まれぬ
咲子・千春・やや子
薄幸な 北国の三代のお話。
一作ごとに視点が変わっており
一冊で まとまっているものの
短編集としても成り立っている。
この手の組み立ては
近ごろよく出くわす。
流行ってるのかな。
みんながみんな
浮かばれなくて
やんなっちゃうんだけれども
なんとも 描写が上手い。
表現がいい。
まるで言葉が唱っているような箇所が
ちりばめられている。
小説のワンシーンながら
もうそこには歌がある。
美しくて 哀しい旋律を
言葉が詩っている。
なにもかもが調っているから
幸せができあがるんじゃない。
星が光を放つ その一瞬だけだからこそ
命を輝かせる幸福になるのだ。
光とは 帯ではなく
輝きの粒の 羅列なのだ。
太陽の棘 / 原田マハ(文春文庫)
終戦直後の沖縄 米軍へ配属になった
軍医エドワード。
ふとした偶然で
地元・沖縄の画家たちが集う
ニシムイ美術村と出会う。
そこに暮らす村民と
エドワードたち軍医との物語。
戦争の痛みは
沖縄にも アメリカ兵にも居残り
その傷が また新たな傷となり
さらなる歪みを生み
哀しみを作る。
でも各々は そこからまた
生きていかなくてはならず…。
そんな中 アートは
双方の立ち位置を超えて
深く心に投げかける力を持っていた。
本当はもっと もっと
掘り下げて描かれるべき
実話なんだろうけれど
なんだか とっても
サラさらっと綴られており
読みやすくはあるけれど
物足りなさは否めない。
作者が書き込める筆力の持ち主だけに
良い本とは 思うけれど
どこか 消化不良感が残るのは
わたしだけでは ないのでは…。
ニシムイ・コレクション。
いつか 本物を
拝見してみたい。
ボクには世界がこう見えていた / 小林和彦(新潮文庫)
二十代半ばで統合失調症になった作者の
四半世紀に及ぶ 闘病記。
発症前そして 発病・発作
入院中
退院後
平穏期
再発作…
その最中に作者が
考えたこと 見えたこと 聞こえたこと。
まさにタイトル通り
その病気のフィルターを通して展開された
世界のありさまの記録。
それは 俗的に云えば
シュール以外の何者でもなく
もう…わけがわからない。
とつぜん 自分が
地球における 希有な逸材となる。
カフカの小説の実写版みたく。
そこから もう 戻って来れないとしたら。
自分の中に
そうやって 制御不能に暴走する
回路があり続けるとしたら。
それは どれほど孤独で
どれほどの 不安と恐怖なんだろう。
> 「頭がおかしくなっていることを
おかしくなっている頭で理解する」ことの困難さを
わかってもらえるだろうか。
>重症時の僕は“何か”と戦っていることが多い。
… 命がけで戦っている。
その病気への
理解のワンステップになると同時に
人間の回路の脆さ・鋭利さに
言葉をなくしてしまう一冊でした。
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