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ひと / 小野寺史宜(祥伝社)
初めての作家さん。
本屋さん大賞ノミネート作品だそう。
総菜屋さんのコロッケは
万人の青春なのだ。
父親を交通事故で亡くし
その数年後 今度は母が突然死した。
ある日 突然 天涯孤独になった二十歳・男子。
大学を辞め 生業になったのは
お惣菜屋さんのアルバイト。
昭和を思わせる商店街で
ひとに出会い ひとに助けられ
ひとを見て ひとに学んでゆく。
端的な文体とライトなストーリー展開で
とても読みやすい。
過酷な境遇ながらも
淡々と素直な主人公に惹かれて
多くの人情が集まってくる。
いるなあ…。
こういう飄々としたタイプ。
いい意味の 執着しない生き方で
知らず知らずのうち
自分を守れているようなひと。
読後ひたすら爽やか。
チューインガムのようです。
すなわち 味は濃くない。
愛がなんだ / 角田光代(角川文庫)
角田さんは痛烈なのだ。
一度 好きになると
尽くして尽くして尽くしまくって
それが度を超えまくっており
結局 「恋」というより
明らかに「執着」になっているのに
強引に幕引きを宣告されるまで
とことん みっともない女になるテルコ。
恋したマモちゃんへの盲目さが原因で
会社すらもクビになる。
文体は明るくコミカルながら
読んでいると
頭痛すら起こりそうなダメ女ぶり。
こういう女子像を綴る時
角田さんは容赦ない。ハンパない。
とことんダメ人間を作る。
救いようがない でも
すぐ近くにいそうなタイプを。
女は怖いなーと
角田本を読むたび いつも感じる。
だから しばらくは
近づかないでおこうと思うのに
なんとなく 気になって
また うっかり読んでしまう
角田ワールド おそるべし。
さざなみのよる / 木皿泉(河出書房新社)
本屋さん大賞ノミネート作だそう。
以前 これを読んでいたと
後になって思い出した。
http://anmitu-1.jugem.jp/?eid=382
この作家さんは
(といっても夫婦コンビだそうです)
命を軸に 逝く者と残される側の
静かに深い時間を描くのが多いのかな。
そこは「死」を多くモチーフにする
よしもとばななにも通じるけれど
あれほど「魂」「超現象」寄りでもなく
柔らかな文体で読みやすい。
そして もう少し 明るい。
癌で逝ったナスミ 40歳。
いよいよ臨終の時を迎える
本人の心情からスタートし
各章 彼女を知る人間たちそれぞれの
ナスミ像とその死への解釈。
地位や名誉に特に際立つ訳でもない
どちらかといえば
あんまりパッとしない中年女性なのに
「自分らしくある」正直な姿が
なんとも魅力的で 眩しい。
予想される 自らの近い終わりを
淡々と潔く引き受けているのが印象的。
身体がいよいよ辛くなってきた件。
「そうか、今日も一日生きるのかと思う。
そのことに、ほっとする時期もあったのに、
最近は本当に体が辛いので、なんだ
まだ死ねないのかよと、がっかりしてしまう。」
そうなのかな。
身近だった あの人も あの人も
臨終間際は そんなこと思ってたのかな… などと
実体験と照らし合わせたりして。
このところ 好きな役者さんが
次々と昇天され
生前にみなさん 自分=現生の入れ物 を
精一杯 使い切る という意味合いをおっしゃる。
本書でナスミ自身にも同スタンスがある。
及ばずながら 自分についても
ちょっと深く もっと厳しく
考えてみようかしら、と思う一冊でした。
よもつひらさか / 今邑彩(集英社文庫)
初めての作家さん、なつもりで読んでいたら
「ん?」
なんとなく 覚えている風合い。
そうそう これを読んでおりました。
今邑ワールド。
http://anmitu-1.jugem.jp/?eid=393
こういう時にこのブログは重宝♪
「うすら怖い」
既読と同様ミステリーというか ホラーというか。
ブラックさが 星新一にも通じる雰囲気。
最後に ブルッとなるどんでん返し付きの
短編12編集。
古事記にもある
あの世に続く道「黄泉比良坂」。
そこで死者に会って あの世の食べ物を口にしたら
連れて行かれてしまうという。
自分が歩く道が どうもそれらしい
目の前の若者は どうも死者らしい
さらりと食べ物を勧め
あちらへ連れて行こうと
微笑みながら 狙ってる
表題作をはじめ
ゾワっと おもしろい一冊です。
どうしてあんな女に私が / 花房観音(幻冬舎文庫)
「平成の毒婦」なんて
その名の通り毒々しく報道され
結局 死刑判決になった
あの女性をモデルに書かれた
こわーい小説。
「変わったペンネームだなー」くらいで
手に取ることはなかった作家さん。
初拝読。
『 怖いです!』(きっぱり!)
モチーフがあれなんだから
当然 なんだけれども。
容姿とは裏腹に
たくさんの男性から女神扱いされ
お金を巻き上げまくり
さらには殺しちゃったかもしれない
”凄い女性” さくらが 逮捕された。
さくら題材の本を書くため
取材を始める 物書き・女性ふたり。
各章 インタビュー証言者ごとに人称を変え
それぞれの立ち位置から語らせる よく見る手法。
このスタイルで印象的な
有吉佐和子「悪女について」も
強烈な女性の話だったなーと。
人間の多面性を書くには効果的なのかな。
だとしたら もう少し
証言者の人数自体を増やした方が
より良かったかも。
実際 ちょっと 物足りない感じがする。
とはいえ もー もー
どの人も どの人も
苦しすぎて 寂しすぎて
怒りすぎてて 憎みすぎてて
グログロで エロエロで
やんなっちゃう尽くし。
「確かに!」「あるね」とは思うけれど
女性性・根底への追求が意地悪すぎて
倒れてしまいそうです。
「こういうの どんな人が書くの?」と
ご本人を検索。
「そうかあ…」 が 素直な感想。
ねことじいちゃん(映画)
岩合さんのねこ写真ファンとしては
見逃すわけにはいきません。
そこは ねこの島。
住民と ねこたちの 穏やかなお話。
暮らしはうらやましいほどに
いたって平和で暖か。
でも あちこちに
命の宿題として不可欠な
”老い” "孤立” の現実。
名優たちに助けられつつも
人間ドラマは まあ ふつう。
この映画の凄さは 別。
当然ながら ねこたち自身。
その姿だけで もう充分にストーリーがある。
彼らの暮らしが すばらしく リアル。
何ひとつ 人為的な構想がちらつかない。
あれは DVDではなく
大スクリーンで味わうべき。
元来 大のネコ嫌いだった父が
さいごの在宅闘病中
一番の心の友にしたのは
長年 うちにいたミケ猫でした。
後の 入院後も
一番 会いたがったのは その子。
そんな父に 向けていた
あの子の眼差しが
本編のねこたちと重なって
もう 涙腺崩壊状態でした。
ハラハラドキドキや
大どんでん返し連発
いわゆるエンタメ映画の華やかさとは
無縁の映画です。
でも その ”ふつうさ” こそが
岩合さんの目線のすごさ。
貴重な一本だと思いました。
改めて 脱帽です。
姫椿 / 浅田次郎 (文春文庫)
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